六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

青ブタシリーズ 第1巻〜7巻

秋アニメで1巻〜5巻までを放映中。6・7巻は来年劇場版公開予定。巻ごとにヒロインが異なっていてヒロインに基づいた表題がついているので,読む順番とかちょっと分かりにくい。でもそこがまた素敵。
ラノベに分類されるしラノベなのだろうとは思うが,その枠に閉じ込めておくことはできないメッセージ性を多分に秘めた大いなる意欲作だと思う。日本社会に蔓延るわけ分からない「空気」という怪物にメスを入れる一方,昨今の「ちょっと不思議」を簡単にSFと呼んでしまう文化にあっては十二分にSFでもある。

  1. 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない
  2. 青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない
  3. 青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない
  4. 青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない
  5. 青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない
  6. 青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない
  7. 青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない
 桜島麻衣先輩のお話に一段落,2回目の6月27日の朝が訪れたところまで。一歩間違えばモンスターにすらなりうる「空気」。これに正面から取り組むという空気を読まなさが爽快。空気を読んで空気など存在しないかのように空気に従うことを空気が強要する社会に心底うんざりしているから。そして桜島麻衣は今までに知った様々な作品の中でも最高級の姉キャラだ。おかげで彼女の出番が楽しみでたまらない。

結局のところ、毎日口癖 のように、「つまらない」とか、「面白いことないかな〜」とか言ってるくせに、本当はみんな変化など求めてはいないのだ。

ほんとそうなんだよね。一度始めたことは延々と続く。そこに安心感を見いだしている人が多いからだと思うが,私には停滞した悪しき習慣に思える。
 

ラプラスの悪魔になった古賀朋絵にまつわる物語の始終と牧之原翔子の出現で終わる。「量子のもつれ」を「粒子のテレパシー的なもの」と言い換えてるところが面白い。
咲太は朋絵のことを「正義の女子高生」と呼んで良きに解釈しているが,私は朋絵の自分勝手さにイライラ。それにしても,仲良しグループの誰かが好きな人に告白されたら空気読まなさすぎでグループから追い出されてクラスから居場所がなくなるとか,理屈がおかしすぎる。クラスで一番可愛い女子とそのグループには誰も逆らえないとか,本当なら最近の高校怖すぎ…。私の頃はさすがにここまでではなかったと思う。私がぼっち過ぎて空気を読んでいなくて知らなかっただけかもしれないが,それにしてもやっぱりここまでではなかった。でもきっと,この物語はきちんとした取材のもとに描かれていて,きっとこれ本当なのだろう。どうしてそんな恐ろしいことに。そんな理屈の通らないルールに従って生きることを強要されたら私だったらどうするだろう。きっと理屈がないことには従えず,かといってその頃の心臓は今の年齢ほどの強度を持っていない硝子素材だったし,それこそ思春期症候群にでもならないと生きていけないのではないかと思える。
その恐ろしい空気というものを主題に扱うという暴挙を遂げているという点で1巻に引き続き感心して読み進んだ。
 牧之原翔子の伏線を小出しにしつつ,分裂した双葉理央の物語。そう,女子のグループに交わることを好まない孤独が似合う少女であっても,寂しいという感情は持っているのだよ。私にもあったよ。だけど,グループは無理。迎合も無理。学校生活はかなりストレスだ。梓川と双葉と国見の関係が羨まし過ぎる。

「女子は同調とか、共感の生き物だからね」

まったくね。興味の対象がに重なりがほとんど無い相手しかいなかったら同調も共感も難しいので,私は必然的に女性のグループに混ざるのは難しかった。自分のことを思い返すと,だからある程度中二病とかにならないと生きて切り抜けるのは難しかったな。
学校の空気と同時に社会の空気にもさりげなくメスが入れられて心地よい。芸能人の麻衣に恋人がいることにとやかく言う社会。麻衣の台詞がまったくもってその通りの正論だった。

「男性アイドルグループのイケメンと付き合って、そのファンから苦情が来るとか、 既婚者の男性俳優と不倫が発覚したとかならわかるけど……高校の後輩、しかも、こんな平凡な男の子と付き合ってるってだけで、私のイメージが悪くなるなら世も末よ」

一体人々は何がしたいのか。芸能人の健全なる男女交際に文句をつけておきながら少子化はダメなんだよね?変なの。どうしてそんなばかばかしい苦情クレームを無視できない社会なのかが不思議だ。バカは相手にせず放置しておけばいいのに。
 

麻衣の妹,豊浜のどかの物語。できすぎた姉を持つ妹が求めているものは? 予想通りな進展といえば予想通りだが,まぁ面白かった。アニメではわかりづらい桜島麻衣のすごさ,咲太とのどかの関係が丁寧に描かれている。今後の物語でのどかの存在は決して小さくないので,のどかの紹介という感じで登場したのかなという印象の巻だった。
 妹ちゃん,かえでの物語。今までの全ての巻を合わせた以上に重かった。私にとってはこのあと続く2巻を合わせても,この巻が一番だった。最後はもう号泣もの。かえでは本当に本当にとても良い子だった。
1巻から通して再三再四書かれているが,昨今の学校というのは「とりあえず空気を読んで空気に従うことが大切」という精神をたたき込む場所らしい。

とりあえず、空気を読んで、空気に従うことが大切。学校の中でそう教えられてきたのだから。自分は特別だと思っても、その気持ちは上手に隠して、はみ出さないように生きていくのが賢い道だと学んできた。

事の真偽よりも、みんなと共通していることが重要視される。

シリーズのテーマだね。だとしたら日本の未来に希望を見いだせない。若者は時代に応じた新しい価値観を持って成長しても,古い価値観で生きる年上世代の空気を読んで何もできなくなってしまう,変化してこそ正常に回る社会の変化が閉ざされて停滞してしまいそう。今日のニュースで「20代から40代の40%は会社の忘年会に行きたくない」という話をしていたが,これも空気問題。彼らは年上世代の空気を読んで行きたくもない忘年会への出席を続けている。空気より強い誰かが止めない限り習慣は続いていく。
ほんと手を替え品を替え空気にメスを入れ続ける青ブタシリーズは,一人でも多くの人に読まれて欲しい作品だ。
 

牧之原翔子の物語前編。小さな翔子の病は悪化していく。咲太の胸の傷が痛む。今まで総じて大人っぽく降りかかる事件を裁いてきた咲太だが,今回というい今回は未熟に見えた。咲太がそういう行動を取ればもちろん麻衣さんはそうするだろう。読者の私には簡単に想像できた。なのにそれを想像できないなんて? 自分と他人の命の重さなどという想像を絶した選択を求められたら,こうなってしまうものなのかもしれない。自分を犠牲にするという行為は,犠牲になったことが誰にもわからない場合にのみ他人を救えるのだと思う。

閉じた漫画本を翔子がサイドテーブルに置く。タイトルの下に書かれた作者の名前は『椎名ましろ』とある。どこかで聞いた名前。先月、文化祭があったときに、校内で迷子になっていた二十代半ばくらいの綺麗なお姉さんと同じ名前だ。

ちょっとお茶目なエピソード。そっか,ペットな彼女はきちんと成長してもう20代半ばになっているのね。迷子にはなってもパンツくらい自分で穿いているかな。どんな美人さんになっているか見てみたいものだ。
 

大切な人と幸せになる未来を目指して,咲太が麻衣が理央がそして翔子が頑張る。そして美しく見事に終わった。

麻衣を見つけた5月
朋絵と嘘の彼氏彼女になった6月
理央と本当の友達になった8月
のどかの成長を見守った9月
かえでの決意を受け取った10月
翔子の未来を信じた12月

1巻からキチンとこの結末を目指して物語は進んでいたのだ。次巻以降なにを続くことがあるのだろう?不思議になるくらいだ。

「咲太君が幸せになるまで、わたしはどんな未来からでも、何度だって咲太君を助けにきますよ」悪戯っぽい笑みに隠された翔子の確かな決意。力強さではない強さが、言葉や態度から溢れていた。「だからもう諦めて幸せになってください」

私にも翔子さんみたいな人がいて幸せになるまで未来から助けに来てくれないかな。