六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

買い物

親元を離れて独り暮らしを始めた頃から,必要な食べ物を身体が要求する声が聞こえるようになった。ある日突然「これを食べなければ」という気分になるのだ。食べるまでその気持ちは解消されない。私はあまり食べることに興味がないし,好き嫌いもない。だから,特別何かが食べたくなるのが最初は不思議だったが,ほどなくそれは自分に不足しているものだと気がついた。身体はちゃんと自らの状態を把握しているのだと分かって感心したものだ。
そして,ここ1週間ほど,ずっとリンゴが食べたかった。身体が食べろと要求していた。しかし,そう簡単にはいかない!
熊本にいたころならば簡単だった。何も悩まず買えば良い。ここ,東京都心ではそういうわけにいかない。物はあるが買って帰れないのだ。何故かというと,スーパーには駐車場がない。駐輪場もない。買った物は全て自分の腕を使って持って帰るのだから,自ずと買える量が制限される。白菜だのヨーグルトだのタマネギだの芋だの醤油だの,重い物を少々買えばもう限界。リンゴなんて重くて嵩張る上に必需品でないものは悉く後回しになってしまうのだった。

一日に何回もスーパーへ行くほど暇ではないし,諦める。カートを持って行けば良いという意見もあろうが,土地が無い故スーパーの通路は恐ろしく細い。そんなものを引きずっていては迷惑以前に自分が店内を歩き回ることも困難になる。カートを持ってきて通路や階段や歩道に置いたまま買い物している人もいるが,やっぱり通行の邪魔だし,私は荷物を持つほどにはまだ十分に若くて元気なのだから,できるだけ人の邪魔になることはしたくない。
そんなこんなで,一週間越しの願いだったリンゴ,やっと買ってきて食べることが出来た。めでたしめでたし。