六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

ヴィンランド・サガ (1)〜(8)

 11世紀初頭のヨーロッパ北部におけるヴァイキングたちの物語。
 同著者の『プラネテス』はアニメを見たのもコミックを読んだのもはてなダイアリーを始める以前のことで,残念ながら感想とか全く残っていない。本は手元にあるので読み返したいと思いつつ,積ん読が多すぎて再読へリソースを回すのが少々難しい。そういうわけで詳細はかなり忘れているが,『ヴィンランド・サガ』が似ても似つかない世界の物語であることは確かで,よくぞここまで違う作品が描けるなぁと感心しながら読んだ。
 
 ヴァイキングって日本人にとっては歴史的にかなり無縁な存在だったのではと思う。高校の世界史などで「ヴァイキングの襲撃」とかいう文字が教科書に載っていたところで,それがどのようなものであるか私は想像もできなかった。私の頭の中にあったのは幼い頃に見たテレビアニメ『小さなバイキングビッケ』のほのぼのした世界で,さすがにほのぼのした存在というのが間違っていることは分かっていても,どう恐ろしいのかどう残虐なのか,平和ボケも手伝って想像できなかった。ロンドン市博物館を訪れた時も,エディンバラ戦争博物館を訪れた時も,ヴァイキングイングランドスコットランドの戦争と同じくらい大きなテーマだったのに,依然として私の頭の中には竜頭の船と角が生えたヘルメットのイメージしか残らなかった。まったくお粗末すぎる知識に我ながら悲しくなるほどだった。
 この本を読むことで,ようやく頭脳が理解に向かって動き出すことが出来た気がする。コミックの力は偉大だ。そうして,こういう物語を描いてくれる作者の方々は本当に偉大だと思う。読み始めた瞬間から引き込まれて読み進めずにいられない迫力があった。
 

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 11世紀初めのフランク王国から始まる。そこへ出没したヴァイキングは土地の争いに首を突っ込み,あっというまに宝を持ち去る。首領はアシェラッドという男。フランク王国の襲撃先の頭の首を取ったのは2本の短剣を使いこなすトルフィンという少年。トルフィンはアシェラッドに決闘を申し込むためにアシェラッドの船に乗っていた。ヴァイキングの故郷ではアシェラッドは慕われている。
 物語はトルフィンの過去へ遡る。トルフィン少年はアイスランドで父トールズ,母ヘルガ,姉ユルヴァと暮らしている。トールズは深い信念を抱いた芯のある男で,奴隷を使わないなど変わっているが村の人々に一目置かれている。ある日,ヨーム戦士団の艦隊が現れ,トールズが昔ヨーム戦士団の大隊長だったことが分かる。
 トルフィンがアシェラッドのもとでどんな風に成長していくのか楽しみだ。
  「ヨームの戦鬼(トロル)」と呼ばれたトルフィンの父親トールズが,自らが信じる「本当の戦士」として最期を遂げる物語。1巻でトルファンに決闘を申し込まれたアシェラッドは,トルフィンの父親のことなど覚えていないと言っていたが,あれはトルフィンを怒らせるための戦略で,トールズのことを忘れられないくらいに認めていたのだろうということが推測できる。アシェラッドへの復讐心に燃えて船に乗り込んだトルフィンが,今後アシェラッドの元でどう育っていくのか益々楽しみになった。
  イングランド。川で倒れているところを地元の女性に救われたトルフィン。だが,トルフィンが現れる場所にはヴァイキングが現れるのだ。ヴァイキングイングランド略奪。
 そして1013年,ロンドン橋。そこを守るのは大男で腕の立つトルケル。手こずるアシェラッドたち。トルフィンはトルケルの首を取りに行く。同じ頃ヨーム戦士団のフローキもロンドン橋へ。トルフィンもトルケルには叶わなかったが,トルケルはトルフィンの父トールズの名前を知っている様子。
 夜バカ騒ぎをするヴァイキングの仲間から一人離れて丘の上に座るアシェラッド。アシェラッドの違う側面が垣間見られる場面は印象的だ。たそがれ時代の夜明けに現れた一人の使者。クヌート王子奪還作戦の始まり。
 一方,アイスランドではユルヴァが涙をこらえて一人で母を助け頑張っている。
  イングランド西部のセヴァーン川を渡り,トルケルに追われながらウェールズを通過。何故かウェールズ語を話し,ウェールズにコネがあるらしきアシェラッドの,驚くべき素性が語られる。リディアの子アシェラッド。姫のようなクヌート王子はトルフィンには何故か口がきけるらしい。
 冬のイングランドマーシア伯領での略奪&虐殺。グレートブリテン島ヴァイキングの脅威がいかほどのものであったのかよくわかった気がする。
  村人たちを皆殺しにして体勢を立て直すアシェラッドたち。狩った兎が縁でトルフィンはクヌート王子の意外な一面を見ることに。
 しかしまもなく村の生き残りの娘の証言によりアシェラッドたちの居場所はトルケルたちに知られることとなり,追っ手がかかる。戦利品を捨てて旅立つ一行。アシェラッドが運をなくしたのではと不安に駆られる部下達。トルケルは戦争大好きだがバカではないから,アシェラッドの器量を見極め,裏切った部下の方に剣を向ける。トルフィンはアシェラッドの助太刀に向かう。彼はあくまでも父の敵は自分の手で殺さねばならないらしい。
 付人ラグナルを失ったクヌート王子は生まれ変われるのか。
  トルケルとトルフィンの2度目の決闘。その間にトルケルが語るトールズとトルケルの関係にトルフィンもアシェラッドもびっくり。決闘が終わったところへ覚醒したクヌート王子が現れ,トルケルは王子の目に,本物の戦士が何かを悟ってヨーム戦士団を出て行った時のトールズと同じものを見る。アシェラッドもラグナルを殺したことを告白する。
  アシェラッドとトルフィンはクヌート王子と共にスヴェン王に謁見する。クヌート王子の周囲は罠ばかり。
 クヌート王子を守ったビョルンはここでアシェラッドとの友情を確認し最期を迎える。アシェラッドを一度裏切ったアトリは心を病んだ兄を連れて故郷へ帰り,アシェラッドの部下はトルフィンだけとなる。
 クヌート王子は王から褒美を受けるためにヨークへ向かうがそこでも当然罠が待ち構える。一方,交易の街ヨークではヴァイキングによる奴隷売買が盛んに行われており,アイスランド時代にトルフィンを可愛がりトールズの船でも一緒だったレイフがトルフィンを探すために滞在している。
  アシェラッド死す。彼らしく策略で死ぬことを選んでのことだったが,アシェラッドの意図を即座に理解したクヌート王子はさすがだった。前巻でクヌート王子に「お斬りください」と言った言葉に偽りはなかったということが事実で証明された。クヌートは王冠をかぶり,ウェールズ攻略は中止となる。アシェラッドが最期に名乗った名前はたぶん本当に本名なのだろう。
 アシェラッドの死を目の当たりにしたトルフィンの顔は悲痛で,憎んでいるつもりでも彼にとってアシェラッドがどれほど重要な存在であったかを物語っていた。
 たぶんこれで「第一部の終了」的な感じだと思われる。