六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

ヴィンランド・サガ (9)〜(16)

 大農場主ケティルの農場で奴隷として働くトルフィンと,相棒のエイナル。農場主ケティルは優しい人で二人が自分の分を稼いだら自分を買い取るようにという。その約束を希望にエイナルは頑張るがトルフィンはあまりやる気がない。生きたいのかどうかもわからない。ただ周囲には普通に気を遣って生きている。たまに悪夢にうなされてエイナルを驚かせる。エイナルは北イングランドの農家出身。少しずつ仲良くなっているのかもしれない。トルフィンも変わるのかもしれない。
 クヌートは見事に変わった。エセルレッドII世を倒し血の道を歩んで,1018年,ついにイングランドの支配者となる。
  トルフィンとエイナルはケティルの父親,大旦那のスヴェルケル老人から道具を借りたり,一緒に食事をとったりするようになっている。同じくスヴェルケルと仲が良い客人の頭「蛇」は,トルフィンに何かを感じている様子。小麦を育てたりスヴェルケルたちの話を聞いたりしながらトルフィンの心も動いて行くようだ。だが崖から落ちる夢を見続ける。アシェラッドを憎めなくなった自分を「カラッポ」と評するが,老人にカラッポなら何でも入ると言われる。エイナルはアルネイズと親しくしているが,アルネイズは奥様に辛く扱われていそう。
 農場では夜間に頻繁に泥棒が現れるようになり,容疑者の子供達が捕まる。丁度ケティルが長男トールギルを連れて帰ったところだったが,ケティルは罰することができない気質である一方,クヌートの部下で歴戦の戦士らしいトールギルは罰することも楽しむ様子。
 農業経験が豊かなエイナルの才覚でトルフィンとエイナルの小麦は丈夫に育つが,奉公人たちの嫉妬を買う。奉公人たちと喧嘩をする中でトルフィンが見た夢は,イングランドの海岸で助けてくれた女性の涙,「誰にも敵などいないんだ」と言うトールズ,戦士が最後にいきつく終わりがない戦いの地で「本当の戦いを戦え,本当の戦士になれ」と言い渡すアシェラッド。
  1018年ユトランド半島,ハラルド王の拠点イェリングに戻るクヌート。クヌートは父親のスヴェン先王の生首だけを話し相手にしている。ハラルドはクヌートを支援し良好な関係を築いているように見えていたが,クヌートは王冠にとりつかれていた。
 ケティルは,オルマルとトールギルを連れて病気のハラルド王を見舞いに出かけるが間に合わず。市場でもめ事を起こしたオルマルの相手の保護者レイフと知り合う。すぐにクヌートに謁見を許され挨拶をするが,ケティルの豊かさはクヌートに目をつけられ,オルマルを囮にケティルは逮捕されそうになる。
 その間に農場ではスヴェルケル大旦那が倒れ,近所で逃亡奴隷が主人一家を惨殺する事件が起こる。
 「すべては楽土建設のため……すべては失われた愛のためだ」と言って旅立つクヌート。
  逃亡奴隷ガルザルとアルネイズの物語。逃亡奴隷はただ凶暴なだけではなかった。彼に宿る強い想いがあった。戦いの嵐の中で子供を失ったアルネイズさんにも強い想いがあった。
 「蛇」がスヴェルケル大旦那に読み聞かせている聖書を盗み聞きするトルフィン。自分が殺した人たちを安らかに眠れる場所に連れて行くため,剣を必要としない地を作りたいと思い始める。エイナルに話すうちに,幼い頃レイフから聞いたヴィンランドのことを思い出す。
 選んだ道はこんなにも違うが,安らかな土地を築きたい想いはトルフィンもクヌートも同じなのだ。そして,アルネイズのために「蛇」と戦わねばならない状況で,トルフィンが取った方法は,かの日のトールズと同じだった。
  クヌート王,ケティル農場を攻める。
 一足先に農場へ帰った一家だが,ケティルは正気を失ってまともに話も出来ず,レイフの商売の話も聞こうとしない。ケティルは優しいのではなく心が弱い人だったのだ。トールギルが一家の指揮をとってクヌートを迎え撃つ。トールギルの手際良い戦略にはクヌートも感心。
 トルフィンはレイフと再会を果たし,戦乱の中トルフィンとエイナルはアルネイズを伴いレイフと共に旅立とうとする。
  20人しか残らなかったケティル軍。出来損ないと思われていたオルマルが初めてきちんと自分で考えた意見を言う。
 オルマルより一足先にクヌートに会いに行ったトルフィン。互いに4年間で別人となったトルフィンとクヌートは,異なる方法で同じものを目指していることを知る。
 「この地上に楽土を築くということは 神の定めた条理に逆らうということ 神への叛逆だ 奴の定めに従っていては人間は幸福になれぬ」と言うクヌート。神の定めに逆らうヴァイキングの王はヴァイキイングを救わねばならぬのだ。
 トルフィンは,クヌートから逃げてクヌートの世界で生きられない人たちのための世界を作るという。
 昔のような表情をして帰って行くクヌートが印象的だ。戦うのを止めた実家に興味を失ったトールギルは出て行き,農場は別人のように逞しくなったオルマルが立て直す。
 レイフやエイナルと共にトルフィンはアイスランドへ帰る。「蛇」が最後に名前を教えてくれた。グリムの子ロアルド。
 で,ユルヴァ強い。さすがトールズの娘。
  家族に過去と将来の想いを告げるトルフィン。ヘルガはさすがヨーム戦士団首領の娘,気丈に息子を激励する。トルフィンたちは資金を集めるために隣村のハーフダンを訪ねるが,そこでレイフの義妹グズリーズと出会う。
 グズリーズはハーフダンの息子シグルドと結婚することになっていた。船乗りになりたがっていたグズリーズだが,大人の分別で諦めて結婚を受け入れるのだが…!?
 トルフィンとハーフダンの交渉はうまくいったとは言いがたいが,ギリシアへ行けば高く売れるイッカクの角をお祝い返しという名目で手に入れた。
  グズリーズを乗せて出発。グズリーズを取り戻すため追いかけてくるシグルドから逃げて,フェロー諸島に立ち寄り,次はシェトランド諸島。ここで赤ん坊のカルリと犬も加わる。一族の争い戦で一人だけ生き残った赤ん坊は災いを呼ぶため親戚にも引き取ってもらえなず,結局連れて行くことに。
 1019年1月,スカンジナビア半島西岸のノルウェーにさしかかり,大きな木を初めて見て驚くグズリーズ。ここで8年前,ベルゲン「凪の入り江」でトルフィンが殺した首領フラヴンケルの娘ヒルドに出会う。