ハインラインの作品は小学生の頃に『宇宙の孤児』を読んで以来,未来史シリーズや『月は無慈悲な夜の女王』『宇宙の戦士』,日本でのみ大人気の『夏への扉』などなど,有名どころはほぼ読み尽くしていたのだが,これだけまだだった。
宇宙からやってきた生物と闘う古典的SF。侵略者は「ナメクジ」と表現されるタイタンからやってきた生物。これにとりつかれ操られる人類が,その支配から脱出すべく闘う物語。ハインラインの作品の中ではかなり過酷な物語ではないだろうか。
不屈の精神と強靱な肉体を持つ機関の捜査官サムが,一人称で発端から最終幕までを語ってゆく。寄生生物「ナメクジ」は人間にとりつき自我を奪うのみならず,とりついた人間が持っている情報も自分の物にする。情報網をあやつられた人間に占領されてしまうと何が本当なのかもわからなくなり,信用できる情報がなくなってしまう。「ナメクジ」は犬や猫など動物にもとりつき,自己増殖しながらどんな包囲網もくぐり抜けて広がってゆく。
作品が書かれた時代がかなり古いため,ソビエト連邦が出てきたり,想定された科学技術も21世紀になって読んでみるとしっくりこない。このため,空想未来小説でありながら,未来の物語というより、遠い昔に分岐した別の世界線の過去の物語を読んでいるように感じられた。「サム」「メアリ」などという名前も古めかしくて懐かしい感じ。古典SFは今や本当に古典なのだなと思ったのだった。そして昔の宇宙物SFって何故かタイタンの出現率が凄く高いんだよね。何故? やっぱ大気がある衛星として浪漫の対象だったのか?
海外古典SFは,福島正実訳だと本当に安心して読める。福島正実氏が亡くなったときはショックだったなーと思い出した。