『空色勾玉』の水の乙女と風の若子の時代から遙か時を経て、彼らが伝説となった時代の勾玉の一族、三野(みの=美濃)の橘の家から始まる物語。橘の家の姫として生まれた遠子と、その家で一緒に育った捨て子の小倶那の物語。
平和だった三野を戦火が焼き尽くし、遠子と従姉妹の象子は一族の巫女の言葉に従って旅を始める。勾玉を受け継ぐ橘の一族は豊葦原に散らばっており、それらを集めて玉の御統(たまのみすまる)を作り、邪悪な大蛇の剣と対決しなければならない。
芯が通って真っ直ぐで意地っ張りな遠子は非常に魅力的なヒロインで、くよくよするくらいなら前を見て進むことを選ぶ。その様子は、前作『空色勾玉』のヒロイン、水の乙女の狭也によく似ていると思った。また『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラを思い出させた。「あなたは強い」と言われるのは、非常に酷なことだ。強い者だって傷つくし絶望するのだから。でも重荷は耐えられる肩にかかるのだと、遠子を見て思ったのだった。
伊津母(いづも=出雲)の菅流は絵に描いたようなプレイボーイだが、女性ばかりではなく男性にも好かれるのだから本物だ。彼が登場すると読んでいる私までが明るく楽しい気分になった。菅流の存在が『白鳥異伝』を魅力的な物語にしていたと思う。一緒に旅をしてよくぞ遠子は気持ちが菅流に移らなかったことだ。
小倶那=小碓皇子は、とても良い子であることは分かるけれど、『空色勾玉』の稚羽矢の如くつかみ所が無い気がした。物語が終わった未来では、きっと個性ある小倶那という人物になったのだろう。
「勾玉は、勾玉だけを力とするものではない」(岩姫:No.5077)
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