六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

know

 Kindle版。u-glenaさんのダイアリーで紹介されてて,電脳とかそういうのが面白そうだったので。登場人物の名前が難しくて苦労。


 2081年の京都。脳がネットと接続する社会。人間の脳の可能性と情報処理の可能性。
 2040年に開発された"情報材"を塗布することによりほぼありとあらゆるものが情報化されモニタリングされている。しかし人の脳は情報に翻弄され先進国から順に情報性鬱病が頻発していく。その状態を救ったのは2053年に京都で初めて人に植えられた"電子葉"。これは脳神経の状態をモニタリングしつつ脳外部からの情報と通信して処理する装置で,社会生活に不可欠であるものゆえ日本では6歳になると全員に付与される。
 電子葉の社会では最初から知っていることと,検索し調べて知ることの差がほぼなくなってしまい,特に6歳で電子葉を植えられた世代の人々は検索して調べられる事柄を「知っている」と言う。ちなみに各々の社会的立場によって決まる"クラス"によって電子葉でアクセスできる情報源は異なる。


 その電子葉を作った天才である道終常イチの最後の弟子たる主人公の御野連レルは情報庁で働くクラス5。一般人はクラス1〜3なので超エリートだが,道終常イチから娘の道終知ルを託される。彼女は0歳のときに"電子葉"の次世代にあたる"量子葉"を植えられており,クラス9に相当する情報処理能力を持っている。


 知ルが求めるものを満たすために連レルは4日間を過ごす。知ることは生きることだと知ルは言う。知りたくて生きたいから,命がなくなるとしてもブラックホールに飛び込むと言う。生きることは物質の自己組織化,知ることは情報の自己組織化で,それらは人間の本質的な欲求であると。
 量子葉を最大限に活用すると,脳はエデンの門番の一人である輪を描いて回る炎の剣と同じ様相を示す。そうして知ルは考え得る限りのことを考えて究極のことを知ろうとする。
 かつて生まれたどんな人も知っている到達点であり,そしてどんな人も知ることのできない究極。それを知るために知ルは旅立つ。
 2119年。有史以来人類にとって未知だったことも,誰もが知る既知事項となっていた。



 創世記3-24にそんな話あったっけ? 聖書を開いてみた。あった。少しも憶えていなかった。

こうしてアダムを追放し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと、きらめく剣の炎を置かれた。(新共同訳)

神は人を追い出し、エデンの園の東に、ケルビムと、回る炎のつるぎとを置いて、命の木の道を守らせられた。(1955年改訳)


 イザナミイザナギの神話がこと座の神話と類似していることも知らなかった(自国の文化を知らなすぎ;)。洋の東西でこんなに酷似した神話があるというのは興味深いことだ。
 読了したらトーマス・マン魔の山』を読み返したくなった。
 進々堂なつかしい。今度京都へ行ったら…行く暇ないな,ちょっと遠い。


know (ハヤカワ文庫JA)

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