六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

マイナス・ゼロ

ハインラインの『夏への扉』を読んだのは1987年7月のこと。読み終わった瞬間に再び最初のページをめくってそのまま最後まで読み進んだSF小説は,たぶん後にも先にもこの1冊だけだったと思います。それほどまでに痛快で,楽しかった。だから,その後,「難しいのはダメだけどSFというものを読んでみたい」というような相談を受けた時は,迷わずこの本を薦めてきました。
読後に『夏への扉』のことを思い出したのは,本書が同じタイムトラベルものであったこと以上に,『夏への扉』を読み終えたときと甲乙つけがたい爽快さが残ったからだと思います。





物語の前半に散りばめられた何気ない布石が見事に回収されてゆく論理的手腕はもちろんのこと,昭和初期の東京の風景や人の暮らしがまるで目の前で繰り広げられているかのようで,読み進むうちに読んでいるものがSF小説であったことすら忘れてしまう描写力,広瀬正という作家の本をもっともっと読んでみたいという気にさせられました。