六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

可愛いエミリー

可愛いエミリー (新潮文庫)

可愛いエミリー (新潮文庫)

以下,読むに値しない独り言的感想。


村岡花子氏の素晴らしい翻訳には常々敬意を惜しまないのだが,この『可愛いエミリー』という表題にだけはどうしても好きではない。赤毛のアンシリーズからようやく解放されたモンゴメリが本当に書きたい物語を書いたのがエミリーシリーズだと聞いていても「可愛いエミリー」などという表題を見ては読みたい意欲がそそられなかった。先に秋元書房から出版して絶版になった『風の中のエミリー』だったら私はきっと人生のかなり早い段階でこの本を手に取っただろう。原題は "Emily of New Moon" だ。後書きで村岡氏は「『ニュー・ムーン農園のエミリー』とでもするのが正しいでしょうが、日本語ではあまりに魅力がありませんので」と書いていらっしゃるが,『可愛い』より「ニュー・ムーン農園」の方が想像をかきたてられるし,この題名だったら私はこの本を少なくとも中学生の時点では読んでいただろう。よりによって,何も「可愛い」にしなくても! 以上,この物語を知っていながら何十年も読む気になれなかった私の八つ当たり。


一気に読み終えずにはいられない物語だった。モンゴメリの自然描写力の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいく,モンゴメリ自身が宿っているエミリーは実に活き活きしている。冒頭でエミリーが一人早春の野へ出て行く場面があるが,もうそこに自分がいるとしか思えなかった。たぶんエミリーの一部になって。草むらを駆け抜ける風の音が聞こえ,頬を撫でる空気の流れがわかった。
孤児になったエミリーが引き取られるニュー・ムーン農園のマレー家のあれこれ,英国からカナダへ移住した誇り高い一族の風習やしきたり,親族関係の確執などは非常に興味深いものだった。一族の頭でありエミリーの養母となったエリザベス伯母は厳格で,確かに非常に強情な難しい人だが,私には彼女の芯にある誠実さが好ましかった。
ところで,この時代のカナダでは子猫を溺れさせて殺すようなことが普通に行われていたのだろうか。猫には魂がないという記述はモンゴメリの他の本の中にもあったのだが。


積ん読が文字通り山積みだが,ともかくまずエミリー3部作を読んでしまおう。