六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

曠野の花

曠野の花―石光真清の手記 2 (中公文庫)

曠野の花―石光真清の手記 2 (中公文庫)

『城下の人』(06/21記)の続編。
日露間の将来に不安を感じた著者は,ロシア語を学ぶ私費留学生として,明治32(1899)年,ウラジオストクに降り立った。しかし,学びの地として生活を始めたブラゴヴェヒチェンスクで露清間の衝突が起こり,同町に住んでいた民間の清国人3000人が,見せしめのために虐殺されるという事件が起こる。無計画かつ無謀な清側の攻撃が,ロシアに進出のための理由を与えた現場だった。
そこに居合わせた著者は,指令を受けるためにウラジオへ戻ろうとする。が,当時,ロシア人は日本人に対して友好的だったとはいえ,ロシア人・清国人・韓人・少数の日本人,そして馬賊,ドイツ・イギリス・アメリカ・ロシア等々各国のスパイが入り乱れ,国境も定かでない土地で,自由に動き回ることはできない。少しでも疑われれば,簡単に捉えられ,牢にぶち込まれ,首を斬られる。下宿先の夫人の計らいで密航し,ウラジオへ戻った著者は,諜報活動を命ぜられる。
軍の諜報員として,洗濯夫,写真屋,雑貨屋,ラムネ屋などに身を転じ,時には馬賊に身を寄せ,支那人に変装して極寒の満州で凍った鮭を囓りながら生きのびる経験もした著者。驚くべき出会いや再会,別れを繰り返す中,命がけで日本のために情報を集めて任務を果たし,明治37(1904)年,ハルビン日露戦争の開戦を迎える。ロシア憲兵によって日本に送り返され,任務は終わったのだと妻子との再会を喜んだのも束の間,すぐに召集されて,再び軍人として大陸へ出征していく。
士族の子弟として立派な教育を施され,前途洋々たる陸軍士官として日清戦争から凱旋した著者は,逞しく生きる術を身につけていった。“数奇な運命”という言葉は,こういう人のために存在するのだろうか?と思われた。急いで読み終わらねばならなかったのは,あまりの波瀾万丈ぶりに読み急いでしまったこともあるのだが,満州の地名,清国人,韓人の名前が非常に沢山登場する上,全部漢字で書かれていて,少しでも間をおくと,何が何だったか分からなくなりそうだったから(^^;。
長く外国で暮らせば,自然,愛国心や同邦人への仲間意識は研ぎ澄まされていくものなのかもしれない。が,ここに登場する全ての日本人たちが持つ,静かなしかし凛とした愛国心には心打たれるものがあった。
最近,ブッシュ父政権の国防副次官ジェッド・バビン氏と,レーガン政権の国防総省動員計画部長エドワード・ティムパーレーク氏が共著で『ショーダウン』という本を出版したが,その中では,将来の日中戦争が描かれている。北京オリンピックが終わった中国では貧富の差が拡大し,中国政府は日本糾弾によってナショナリズムを煽り,国民の不満を解消しようとする。首相の靖国参拝は中国への戦争行為であると宣言し,日本人技師らをスパイ容疑で死刑に処し,尖閣諸島の放棄を迫り,とうとう2009年8月,日本へミサイル攻撃。しかし,その頃米国に誕生していた民主党リベラル派の女性大統領は親中で,同盟国日本への支援を拒み,日本は降伏。
さすが米国の元国防省高官が書いたシナリオだけに,たかがフィクションと聞き流せる内容ではない。弾がドンパチ飛び交うだけが戦争ではないこと深く認識し,感覚を研ぎ澄ませて利害関係が一致しない近隣の国々に注意を払うべきだし,有事への備えは犠牲を払ってでも常にしておく必要があるのだと,過去,日本を守るためにこうして命をかけた人たちの想いにふれるにつけ,考える。形こそ違えど,東北アジアに各国の思惑が交錯する現実は今も同じだ。
それにしても,未来小説の中までも,日本を見捨てるのはトルーマンと同じ民主党…というのは頷ける。米国に,日本を「最大のセキュリティホール」と言わしめているのは,他でもない,自覚無き我々一人一人。溜息が出るが,これまた事実だと思う。歴史に学ぶことを疎かにしてはならないと思いながら,日露戦争へ向かう日本を読み進んでいる。