六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

長い冬 〜 わが家への道

福音館書店から出ている前半(大きな森の小さな家 〜 シルバー・レイクの岸辺で)とは翻訳者も異なり,1950年代に出ている鈴木哲子訳はかなり違和感がある。『長い冬』は自宅に持っている古い訳本を読んだが,『大草原の小さな町』以降は図書館から借りて,初めて谷口由美子訳で読んでみた。福音館書店刊の前半との違和感がなくよかった。
 

長い冬 (上) (岩波少年文庫―ローラ物語 (3030))

長い冬 (上) (岩波少年文庫―ローラ物語 (3030))

 ローラ14歳。開拓農地の小屋へ引っ越して半年が過ぎた秋。10月に入ると同時に霜が降り,長い冬が始まって,まだクリスマス前だというのに町には汽車が来なくなり,小麦や肉が底を尽きかける。
 1955年発行で訳者の鈴木哲子さんはあとがきで「「母ちゃん」のはなすことばは、都会の学校の先生のようなことばで、きっすいのお百姓さんのことばではないのです。けれども、日本語では感じが違うように思ったので、私は適当に農村らしくしたつもりです。」と書いているが,これがもの凄い違和感だった。福音館書店から出ている恩地三保子訳の「大きな森の小さな家」シリーズを先に読んで,キャロラインが如何に言葉遣いに注意を払う女性でローラやメアリイの言葉遣いを度々訂正していたかを知っているので,キャロラインがこんな言葉遣いするわけない!と始終思い続けてしまう。また,チャールズがキャロラインを「母ちゃん」と呼んだり,メアリイがローラを「ローラちゃん」と呼んだり,キャリーがローラを「姉ちゃん」と呼んだりするのも,名前で呼び合う欧米人の文化を誰もがよく知っている現代ではたまらなく違和感だ。新しく出ている谷口由美子さん訳を読みたいとつくづく思いながら読んでしまった。
 
長い冬〈下〉 (1955年) (岩波少年文庫)

長い冬〈下〉 (1955年) (岩波少年文庫)

 汽車が来ないことが確定して迎えるクリスマスから5月のクリスマスまでの街の人々の飢えとの闘い。
 
大草原の小さな町―ローラ物語〈2〉 (岩波少年文庫)

大草原の小さな町―ローラ物語〈2〉 (岩波少年文庫)

 古い鈴木哲子さん訳(1957年)と読み比べてみた。メリー→メアリ,父ちゃん・母ちゃん→とうさん・かあさん,ほか,言葉使いなどもこちらの方が違和感なく読めた。が,詩歌の訳は鈴木哲子訳の方が全体的に良かったと思う。
 『テニソン詩集』の「ハスをたべる人びと」の意味(何もせずぐうたらしている人々)が解説してあって良かった。また巻末に当時のデ・スメットの地図があるのも良かった。
 
この楽しき日々―ローラ物語〈3〉 (岩波少年文庫)

この楽しき日々―ローラ物語〈3〉 (岩波少年文庫)

 ブルースター学校で教えるために,とうさんのそりで20km離れたブルースターさんの家へ向かうところから始まる。
 この本も鈴木哲子訳と比べ全体的に違和感なく読める。特に「Hightland Mary」の「ハイランド」は地名だというのに鈴木訳では「高地」となっていて非常な違和感だったが,こちらでは「ハイランド」と書かれていて,ロバート・バーンズの詩である注釈もあり満足だった。他の物語中の数ある詩歌にも注釈があり良かった。ローラの結婚前夜にとうさんが弾いた曲が,アイルランド人ジェイムズ・モロイの「古いやさしき愛の歌」であることもわかって良かった。
 
はじめの四年間―ローラ物語〈4〉 (岩波少年文庫)

はじめの四年間―ローラ物語〈4〉 (岩波少年文庫)

 鈴木哲子訳でかつて何度も読んだこん本だが,苦しいだけの最初の四年間のような印象だった。もちろん楽しいこともたくさんあった新婚時代なのだが,農業というものは本当に不条理で報われないことが多いものだと,よくも嫌にならず絶望せず生きていけるものだと。谷口由美子訳は前の3冊と同じく読みやすくなっていたが,淡々と出来事を書き連ねられているだけに明るくない印象には変わりなかった。
 新訳では訳者あとがきで『はじめの四年間』の出版の背景や,この後のローラとマンリーの人生について詳しく書かれていて参考になった。
 
わが家への道―ローラの旅日記 (1983年) (岩波少年文庫)

わが家への道―ローラの旅日記 (1983年) (岩波少年文庫)

 この本は鈴木哲子さんによって訳されなかったため,私も最初に読んだのがこの本で,1983年の谷口由美子訳が出た直後だった。
 ローラとアルマンゾの結婚から9年経った1894年7月17日,ワイルダー一家はデ・スメットを発った。100ドル貯めて,ミズーリ州の「大きな赤いリンゴの土地」へ移住する計画を実行するためだった。ジフテリアを患って身体が不自由になったままのアルマンゾに,ダコタの寒い気候は厳しすぎたのだった。
 ミズーリ州マンスフィールドまで,サウス・ダコタ,ネブラスカ,キャンザス,ミズーリと4つの州をまたぐ45日間,650マイル(約1050km)の馬車の旅は,華氏100度前後(37〜43℃)の厳しい暑さの中だった。物語はローラの旅日記と,その前後のローズの捕捉で構成される。旅の地図がついているため,聞いたことのない小さな町も,どのあたりなのか把握しながら読むことができる。
 全くといっていいほど雨が降らない7年間の後に移住を決めたワイルダー一家なので,ローラは道中の土地の作物の収穫の様子を細かく観察している。また道中で出会った旅の家族からの作物などの情報についても書き綴っている。途中の街の当時の写真がローズによって追加されているため,旅の様子を想像する良い助けになる。
 『大きな森の小さな家』で4歳〜5歳だったローラが,パイオニア・ガールとして育ち,最終的にどんな土地でどんな生活を望んだのか見届ける1冊。