六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

クワイナー家の物語 (1)〜(7)

 クワイナー家の物語については,ローラのシリーズに登場するおじさん・おばさんの記述とキャロラインの関係,キャロラインの家族の年表などを加え,各本についても加筆し下記サイトでまとめ直しました。よかったら下のサイトの方をご覧下さい。
kawayura.com


 『大草原の小さな家』のローラのお母さんであるキャロラインの子どもの頃の物語。
私が『大草原の小さな家』の最初の1冊『大きな森の小さな家』を小学校の図書館から借りて夢中になって読んだのは,1973年。まだ日本では福音館からこの本が出版されていただけで,『大草原の小さな家』は有名になっていなかった。テレビドラマ『大草原の小さな家』の日本での放映は1975年〜。アニメ『草原の少女ローラ』は,1975年10月〜1976年3月で,いずれも私がシリーズの大ファンになって何度も本を読み返したあと。本こそが原点だったのでテレビにはそれほど惹かれず,翻訳・原書合わせて何度も繰り返し読んだ。
 その後,キャロラインと,キャロラインの母シャーロット,更にスコットランドからアメリカへ移住したシャーロットの母親マーサについて調べて書かれた物語があることを知った。キャロラインの物語はローラが『大草原の小さな家』シリーズを書き始める前,キャロラインの姉マーサに子ども時代の話を尋ね,マーサが応えて沢山書き送った手紙に基づいて書かれている。シャーロットとマーサについてはどのように調べたのかわからない。
 兎にも角にも存在を知ってすぐ,キャロラインの最初1冊だけ原書を取り寄せて読んだのは,まだAmazonの日本法人がなかった頃。その後に翻訳本も1冊だけ出ているのを知っていたが,ようやく翻訳本を全巻通して読むことができた。(感謝:id:loveppap 様)
※当ブログは単なる読書記録なためネタバレには配慮しません。書評が読みたい方はこちらのサイト様を↓。

 

 キャロライン5歳,ジョセフ12歳,ヘンリー10歳,マーサ8歳,イライザ3歳,トーマスは赤ちゃん。お父さんを失ったクワイナー家が厳しい冬を乗り越え,翌年の6月にキャロラインが初めて学校へ通うようになるまで。
 とても優しく美しい文章でありありと描いてあるため,キャロラインの大好きなホットケーキがこの世でもっとも素晴らしいご馳走のように思えた。飼っている豚やメンドリのこと,重労働で大変なお洗濯,街の喧噪の中で見かけた駅馬車や雑貨店の心躍る品々,心に残る素晴らしい誕生日祝いやクリスマスプレゼント,教会へ着ていくドレス一つでどんなに心が浮き沈みするものか,初めて行く学校がどんなに不安で楽しみなものか。今よりもっとゆっくりとした時代だったせいか,開拓地であるせいか,日常生活の内容はローラの時とそれほど印象が変わらないのだが,キャロラインという全く違った個性を通して見る世界が新鮮だった。
  初めて行く学校の続きから。キャロラインは6歳〜7歳。
 独立記念日のお祭り,畑を荒らす野生動物,湿地に実るベリーの実,ボストンから届いた夢のような品々。暖かな冬の1日。キャロラインがおさげの先に結んだリボンを度々確認するのだが,私も小学生の頃,同じように髪のリボンがなくなっていないか触って確かめていたっけと思い出した。カエデ糖のこと。教会のドレスのことで一悶着あったスザンナ&エスター姉妹とリボン・フープ。コーデュロイ橋を通っていくサーカスを見た話,そして森のシロクマ。旅行鳩の大群が通る頃。そして最後に運命を変える手紙が届く。大きな悲しみと「わが家」を知るキャロライン。サンタクロースがアメリカに広がった時代がこの頃だったとのことだ。巻末の本間長世さんによる解説が素晴らしかった。
  ジョセフ15歳,ヘンリー12歳,マーサ10歳,キャロライン8歳,イライザ6歳,トーマス3歳。
 ベンさん父子とイライシャ叔父さんに手伝ってもらってクワイナー一家は十字路の町ブルックフィールドをあとに,コンコードの森の中の丸太小屋へ引っ越しをする。新しい土地で過ごす最初の1年。新しく出会うのは,森の中の掘っ立て小屋で暮らすマイルズとウォリー兄弟,行商人のゾービーさん,近所の大地主ケロッグさん,そこで作男として働くホルブルックさん,巡回牧師のスピークスさん。スピークスさんの話からゴールド・ラッシュの時代であることがわかる。ゴールド・ラッシュに興味を示したのはヘンリーとトーマスだったが,それが何故なのか解説で井上一馬氏によって説明されていた。
  キャロライン9歳,イライザ7歳。
 何曜日に結婚するのがいいか―水曜日。シャーロットの再婚は1849年6月3日のことだったらしい。ケロッグさんの指導力の下で発展していくコンコードの街。ダムを造り製粉所を作る。一方,金を探しにカリフォルニアへ向かう熱病が大流行し,コレラという本物の伝染病の噂も。当時の社会でコレラは大きな確率で死をもたらすものであったと思われるが,ケロッグさんという素晴らしい隣人に恵まれ,一家はコンコードでの2度目のクリスマスを迎えることができた。クワイナーのおばあちゃんとの再会は読んでいて心温まるものだった。
  キャロライン11歳,ジョゼフ17歳,ヘンリー16歳,マーサ14歳,イライザは9歳,トーマスは7歳。1851年9月,コンコードへ引っ越して来て3年が経過している。
 近所の人も増えて学校もできて,クワイナー家の住宅は板壁の立派な家になった。キャロラインの将来に大きな影響を及ぼした出会いが二つ。川向こうに引っ越して来たインガルス家と,家に下宿することになったメイ先生との出会いだ。また,農作物では小麦を作るようになり,近所の人たちがお互い助け合って農作業をする社会ができあがっている。都会育ちのメイ先生に説明するように,小麦の脱穀の仕方や蝋燭や石鹸作りのことなども書かれていて興味深い。ブルックフィールド時代のお隣さんであるカーペンター家の人々との思いがけぬ再会や,大人になっていくジョゼフにマーサ。メイ先生が指導する学校での綴り方のゲームのことや,女の子たちが興味を抱く新しいブルーマーのファッションのこと,冬のサプライズ訪問のこと,奴隷廃止の気運の盛り上がりなど,当時の社会の日常が細かく描かれており,1851年〜1852年を感じながら読むことができた。
  前作の終わりから4年の月日が流れ,1855年〜1856年。ミルウォーキーで大学生活を送る15歳〜16歳のキャロラインの9ヶ月。
 ミルウォーキーで新聞社を営むイライシャおじさんの家には,女中さんがいてガスが通り,エレベーターがついている。ミルウォーキーの町にはガス灯が点り,朝は騒々しい都会の喧噪で始まる。何もかも異なった世界。イライシャおじさんは大変進歩的な考え方の人で,新しい物をどんどん導入し,女性にも教育や選挙権が必要と説き,日曜日は家族で演奏会を楽しんだり,キャロラインは驚くことばかり。キャロラインは戸惑いながらもイライシャおじさんの家族に温かく迎えられ,街の舞踏会や初めての仕立屋など,新しい経験を楽しむ。
 大学は「アンクル・トムの小屋」の著者ストウ夫人の姉であるキャサリン・ビーチャー女史が設立したミルウォーキー女子大学で,文学や数学,自然科学はもちろん,家政学や美容体操などの教育も行われる。お金持ちの令嬢が多く,キャロラインは服装や社交界など知らないことばかりで精神的に辛いことも多かったと思われる。そんな中でも心をしっかり保って「考えて、考えて、考えぬく」を実践し,よく勉強して優秀な成績で卒業した。彼女が卒業のときに書いた「海」という作文をできれば英文で読んでみたいものだと思った。
 大草原の小さな家シリーズでは知り得なかった当時のアメリカ社会の違った側面を知ることができて面白かったので,キャロラインの大学生活が終わり物語が終わった時,ちょっと残念な気持ちになった。
  1857年5月4日,17歳になったキャロラインはコンコードの学校で教職を得て翌日から働くことになっていた。マーサは19歳で婚約しており老婦人宅の家事の仕事をしている。ジョゼフとヘンリーは成人して独立し,自分の農地を持っている。幼いロティは3歳,イライザは15歳,トーマス13歳。
 前半は主に教師として歩み始めたキャロライン。1858年の独立記念日でチャールズ・インガルスと再会する。西部へ行きたいチャールズと,愛する家族の近くで地に足をつけて生きていきたいキャロライン。しかも有能な教師として職業に楽しさを見いだしているキャロライン。チャールズとキャロラインが結婚することは周知の事実だが,ローラシリーズでも垣間見たように,お互いの歩み寄りが必要だったのだろう。「わが家とは、心があるところ」をこの後の人生で彼女が実践していくことはローラの物語で明らかだ。
 20歳に満たないキャロラインは学校で起こった問題を,悩みながらも見事に解決していく。まさに天職と思われ,女性が結婚後も仕事を続けられる時代ではなかったのが読んでいて残念だった。チャールズと結婚するのは1860年なので,その後ジムを卒業させてあげられたのだろうか? しかし彼女はこの先ローラやメアリイの良き教師にもなるわけで,この時代に大学を卒業するという希な経験をした教養ある彼女が母であり主婦であることは,開拓地でとても大きな力だったのではないかと思った。
 
 
 続けて『大きな森の小さな家』を読みたいとも思ったが,キャロラインの祖母である「タッカーのおばあちゃん」ことマーサ・タッカーの子ども時代の本『Little House in the Highlands』を読んでみようと思う。3年前にスコットランドのハイランド地方を旅したが,ハイランドはとても心に残る美しい場所だったし,スコットランドの人々は親切で印象が良かったし。最近サボっていて英語力落ちてるし読めるかが問題(^^;。