恋愛小説だけど,恋愛ではない要素でほぼ埋め尽くされており,爽やかでテンポ良く知的で幻想的。『四畳半神話大系』のアニメを見てから読み始めたので,「私」は眼鏡の大学生,「黒髪の乙女」は明石さんのイメージで読み進めた。樋口さんや羽貫さん,映画サークル「みそぎ」など共通して登場する人物や団体もある。「私」と「黒髪の乙女」の視点で交互に語られる形式が面白かった。「黒髪の乙女」は非常に酒に強く,独創的で,人なつこい。
「それにしても君はよう飲むねえ。そんなペースで大丈夫なのか?」
「のんびり飲んでいたら醒めてしまいます」
君、いったいどれぐらい飲むの」
私はむんと胸を張ります。「そこにお酒のあるかぎり」
夜は短し歩けよ乙女:季節の頃は新緑も過ぎた五月の終わり。結婚祝い帰りだった「私」は後輩の「黒髪の乙女」を追いかけて夜の先斗町・木屋町界隈を歩き回る。彼女は持ち前の酒の強さを武器に?色々な人と知り合い一晩のうちに新天地を切り開く。
深海魚たち:季節の頃は八月,下鴨納涼古本まつり。古本市が嫌いな「私」だが,彼女が出没するという噂を聞いて出かけることに。彼女はまたしても様々な人と知り合い話をする。古本の神さまを名乗る子供や和服姿の美しい女性。彼女は幼い頃に好きだった絵本『ラ・タ・タ・タム』をさがそうと決意する。様々な本の名前が登場する。古本市の神は「悪しき蒐集家の手から古本たちを解放」する。「本棚の隙間を泳ぎながら、意中の本を探して」いる「海の底のお魚のよう」な人々のとある夏の一日の物語。
御都合主義者かく語りき:晩秋の学園祭。彼女は一人学園祭を楽しみながら歩き回っている。そして偶然にもゲリラ演劇「偏屈王」のヒロインを演じることになる。ゲリラ演劇は学園祭テロリストとして事務局に追われている。樋口さんとパンツ総番長が鍋をつつく「韋駄天コタツ」。彼女と「私」は会えないながらも似たような人を見かけ似たような場所を徘徊し,ついにはご都合主義極まる劇的な出会いを果たす。
魔風邪恋風邪:時の頃はクリスマス。街中に流行する悪性の風邪のために「私」は伏せっており,風邪の神さまに嫌われている彼女は一人元気に見舞いをしてまわる。いつもどこかで偶然に出会う「先輩」と長らく出会っていないことに気づいた彼女は,先輩を見舞わねばと思う。羽貫さんに樋口さん,元パンツ総番長に紀子さん,東堂さんに李白さん。古本の神さまの男の子に空前絶後の妙薬『ジュンパイロ』をもらった彼女。京都の学生の話なら必ずといってよいほど出てくる喫茶店「進々堂」で物語は終わる。外堀を埋める日々を全うした「私」。
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る