六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

君主論

 フィレンツェ共和国の外交官であったニッコロ・マキアヴェリ(1469〜1527)により,ロレンツォ・デ・メディチウルビーノ公ロレンツォ,1492〜1519)に献上するために1513年〜1514年に書かれた親書。ウルビーノ公ロレンツォは献上前に亡くなり,結局マキアヴェリの死後に出版され,ヘーゲルの『ドイツ憲法批判』によって評価されるまで400年にわたって批判の嵐を浴び続けた。
 表題の通り君主が領民を治めるにあたって留意すべき事柄などを,歴史上の実在する君主達,伝説上の君主達の行動を当時の社会情勢の考察を加えながら批評し軽快に説いてゆく。そして最後には,今こそがイタリアを新君主が治める最高の機会であり領民はそれを待ち望んでいると,イタリア詩人ペトラルカの言葉を引用し締めくくっている。

 東洋で言う性悪説に近い考え方をもって,前君主の血筋を根絶やしにすれば簡単に統治できるとか領民を殲滅してしまえば良いとか,現代の常識からすると凄いことがサラリと書かれていたりする。目的のためには手段を選ばないマキュアベリズムというような見方をされてきたようだが,私にはそんなことを言っているようには読めなかった。非常に理性的かつ論理的な人間観察に基づいた理想論であると受け止められた。
 文章は軽快で読みやすく,著者の人間と社会を観察する生き生きとした視点を垣間見ながら大変面白く読めた。皮肉をこめた文章の運び方にユーモアが感じられ楽しかった。ヨーロッパの歴史と地理に明るければ,もっと面白かっただろう。要するに人を治め使うために上に立つものはどうあるべきかということが説かれているので,普遍的な人間の心理などは現代の社会にも通じ参考になるだろうと思う。
 

すべて国の重要な土台となるのは、よい法律としっかりした武力である。

 

自国民からなる軍隊を創りえないのは、為政者みずからの罪である

 

あまりに憐れみぶかくて、混乱をまねき、やがては殺戮や略奪をほしいままにする君主にくらべれば、冷酷な君主のほうは、ごくたまの見せしめの残酷さを示すだけで、ずっと憐れみぶかい人物になる

 

人間は、父親の死はじきに忘れてしまっても、自分の財産の喪失は忘れがたいものだから、とくに他人の持物に手を出してはいけない。

 

大衆はつねに、外見だけを見て、また出来事の結果によって、判断してしまうものだ。しかも、世の中にいるのは大衆ばかりだ。

 

よい軍備のあるところ、かならず、よい味方がついてくる。

 
解説から。

ヘーゲルはこう述べた。 「マキアヴェリは、彼に先立つ数百年前から同時代までの、歴史を念頭において考えるべきで、そうしてこそ初めて『君主論』の正しい理解ができる。まことに偉大で、高邁な思索をめぐらせた政治家の心が生んだ、真にすぐれた観念が見えてくる」(『ドイツ憲法批判』一八〇一〜〇二)。

 

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)