六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

眠い、ねむうい由紀子 @ 窓のあちら側

 私はとにかく眠い人だった。授業中の居眠りは小学生の頃から常習で,受験勉強をしていても常に襲い来る眠気のためにまともに勉強できたためしがなかった。大学生の頃は成績表に優を並べるのが趣味だったので酷く熱心に講義に出席し,眠らぬよう前列の席で頑張っていたが,それでも気がつくとノートにミミズが走っていた。サークルの部室でもよく勉強していたけれど,勉強というのはホント眠くて眠くて眠いもので,私が眠そうにするたび,新井素子大好きなサークルの友人に言われていたのだった。『眠い、ねむうい由紀子』と。
 彼女は新井素子の新作が出る度に頼みもしないのに嬉々として私に本を貸し出してくれたし,私は私で常に読む本が必要な人だったので喜んで借りて読んでいた。だから新井素子の初期の作品はかなり読んだのだが,『眠い、ねむうい由紀子』は本に収録されなかったため読む機会に恵まれなかった。おかげで,どんなユキコの話なのよ???と気になりながら30年ばかり過ごすことになった。
 読みたくて度々調べていたので『窓のあちら側』に収録されたのを知ったのは出版後間もない頃だったけれど,単行本で高いし場所をとる。本を置く場所に困り果てていたので買えなかった。最近になってkindleで出ていることを知って,ようやく読むことができた次第。あぁ素晴らしき電子書籍

 友人から自動的に貸し出されるため数々読んだ新井素子だったが,実のところ嫌いでも好きでもなかった。物語は面白い。ストーリーや設定は好き。…なのだけれど,よく出てくる,そして新井素子作品の特徴でもある「あたし」という一人称が好きになれなかった。あと,「あたし」のやたら女の子っぽい性格にも馴染めなかった。今読んでみてもやっぱりそうだった。私は「わたし」と言いたい人で,「あたし」と言われるとどうも居心地が悪い。あと女の子っぽい女の子もめんどくさくて共感できない。でも新井素子の作品は読みやすく面白いし,たまにちょっと切なくて鋭くて,そんなところは好きだ。煙草を吸う登場人物がとても多かったのは,作品が書かれた時代だろうか―。

 『窓のあちら側』は「いろ」をテーマにした自選短編集。後ろの3作品はボーナストラックみたいなもので,今までどの本にも未収録だった作品を載せたとのこと。おかげで長年気になっていた『眠い、ねむうい由紀子』を読むことができたというわけだ。

  • グリーン・レクイエム (緑)昔,かなり昔,講談社文庫で持っていた。数々の引っ越しの課程で荷物を減らすために手放さざるを得なかった本だったけれど,髪で光合成をする異星人の女の子の郷愁の物語は印象的すぎて,もう一度読みたいとずっと思っていた。中二病的に私はかなりこの物語の明日香だったので。
  • ネプチューン (青)大学生の頃以来の再読。内容は覚えていなかった。濁った茶色の海に黄金の魚。3人の大学生。どの子もあまり好きになれない3人。カンブリア紀と繋ぐタイムトンネル。そうだ,たまたま気が合わない人と同じ感性を持つことだってあるだろう。思い込みって怖い。続いてゆく生命を導くもの。やっぱり最後までみんな嫌いだったが,由布子の「人類は、いつのまに、そんなたいした生物になってしまったのだろう。自然に対して人為という単語を並べることができる程。」という言葉には共感した。「人類も歴史の一部なら、人類が海を汚し、山をけずることも、自然」と私もずっと思っている。(だから環境保護とかいう言葉は大嫌い。)
  • 雨の降る星 遠い夢 (黄)ヒガ種きりん草。電話とか図書館から資料を取り寄せるとか,人類が火星に住んでいる時代なのにちょっと古めかしい。雨の降る星ヒガ星からやってきた草たちは,テレパシーを使って自分の星の開発を止めさせようとする。後半冗長で読むのに疲れた。
  • 一月 雪 (白)地面さんとおひさまの話。
  • 八月 蝉 (茶)神様と天使様と台地の中の蝉の子。
  • 十二月 夜 (黒)夜の神さまの話。
  • 眠い、ねむうい由紀子 「自分の力で」合格したくて浪人して受験勉強をする由紀子さんは常に眠い。なのに成績は上がっていく。実力とたまたま。
  • 影絵の街にて 時の流れを連動させる時計。この話はどこかで読んだか聞いたか見たかしたことある気がする。確かに「時間という枷がなければ、流されるままで何もできない」のかもしれない。私も。
  • 大きなくすの木の下で この物語もどこかで読んだような気がする。木の下にいる魔物。人生を切り開く意欲を狙う魔物。

 

窓のあちら側 (ふしぎ文学館)

窓のあちら側 (ふしぎ文学館)