ビッグ・ブラザーのある形。生まれつきの脳だけでは足りなくなった人間がたどる未来。
1月から12月まで,メロン・マンションの1階から12階の部屋に住む誰かのエピソードと共に,コンピュータが世界を支配していく様子が,あるいは人類に平穏が訪れていく様子が,描かれる。キーワードは秘密。
コンピュータは誰も不幸にならないよう世界の秩序を作り守り支配するが,そのコンピュータの意志は人間の情念によってもたらされた人間の望みであった。もはやどちらがどちらを支配しているというものではない。エネルギーたる情報。その適切な循環の管理。
おだやかさのなかにあっては、おだやかさへの追求などできっこない。
何と空恐ろしいことだろうか。穏やかなだけの世界とは。
チンと鳴る電話機が重要な道具となっているところに古さを感じたけれど,初版は昭和60年10月。昭和60年=1985年といえば容量20MBのSASI HDD登載の PC-9801M3が出た年で,MS-DOS 3.0の時代。コンピュータは高価すぎてお金を持ったマニアの人を除き,個人が持つものではなかった。家庭ではまだ黒電話が主流で残っていた。書かれた時代を考えればデバイスが電話になるのも仕方がないか。
コンピュータが意志を持って行動する物語は当分なくならない分野だろう。個人情報が利用されていく話は,この小説が書かれて30年経とうとしている現在,かなり現実的になっているのではないか。
以前,「ビッグ・データってビッグ・ブラザー。」と書いたことがあった(1984年 - 雪と羊の狭間には)が,その頃から何となく怖くなって,できるだけビッグ・データに個人情報を漏らさないように気をつけている。ポイント・カードなんかもあまり作らない。
人類が自分の脳だけで生活するのが難しくなってきていることは常々感じているし,どうなっていくのだろうかと考える物語であった。
- 作者: 星新一
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2012/10/16
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1月下旬くらいにやっていた Kindle角川文庫70%OFFセールで,内容もわからず適当に買ってみた。星新一を読むのなんて何十年ぶりのことやら? こういうセールは,いつも読まない本を手にとってみる機会になる。欲しい本があれば買うのは勿論,なければ,適当に目についた本を買って読むのも一興だ。もしつまらなくても何しろ安いし,つまらなかったという情報は将来の役に立つ。
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