六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

新世界より

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

 前半が退屈という感想もウェブでよく見かけたが,私には少しも退屈ではなかった。500ページ近い本だが一気に読み終えた。渡辺早季による回想録という形態で書かれており,神栖66町や町を構成する七つの郷,人々の習慣,悪鬼や業魔などの背景情報について淡々と述べたあと,祝霊と通過儀礼,全人学級において麗子と学がいなくなったエピソード,バケネズミを助けたこと,それに付随してバケネズミのコロニーについての解説,そして夏季キャンプで図書館と出会い,早季と覚の孤独な土蜘蛛コロニーとの闘いが描かれ,奇狼丸によって闘いが終結したところまで。アニメが如何に忠実に作られていたかがよくわかった。
 アニメでは今ひとつわかりにくかった風船犬や離塵師の死因,愧死機構についても理解できてスッキリした。


 早季と覚が大雀蜂コロニーの掘っ立て小屋で目覚めた日に始まり,早季と覚が街の外のかまくらで過ごした夜に終わる。
 キャンプの後に2年が経過し,幼なじみだった彼らの間には幾つかの人間関係の微妙な変化が起こっている。大きく残酷な最初の別れ。記憶操作による違和感。富子さんとの出会い。守の家出。野狐丸の名を獲得したスクィーラとの再会。
 この巻を通して1000年後の世界の歪みや秘密が解き明かされ,固い絆で結ばれていた5人の仲間のうち3人までが退場してしまう。次を知るために読み進まずにはいられなかった。


新世界より(下) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)

 保健所の異類管理課に勤務している26歳の早季のもとへ,事件の発端を示す最初の情報を持って覚が訪れる。
 下巻だけで550ページにも渡る大著で,しかもアニメで結末まで知っているというのに怒濤の展開にページをめくる手は止まらない。世界観は綿密にSFで塗り固められているが,人間の心理や倫理,宗教観,戦術・戦略の知識などが巧みに散りばめられ,最後まで飽きさせず読み進めさせる構成だったと思う。改めてアニメは非常に原作に忠実に丁寧に作られていたことがよくわかった。
 最後に早季が引用した言葉「想像力こそが、すべてを変える。」早季がたどった軌跡を思えば,この通りなのかもしれない。


早季というのは私がすごく入り込みやすい人物だったので,物語に入り込みすぎて,昨夜読み終わって眠ったら怖い夢や悲しい夢ばかり見てしまいました(^^;。